ネパールの人身売買の概要

1.ネパールの少女たちを取り巻く環境
  ネパール・インド間のオープンボーダー(柵の無い国境)を越えて、年間5000〜7000人の貧しいネパール人少女が、インドへと人身売買されている。 被害者の年齢は14〜18歳が主流。
その大半が16歳以下であり、中には5〜7歳の初潮さえ迎えていない幼女も含まれる。

 貧困家庭の子女は初等教育さえ受けられない。貧しい家庭では子どもも重要な働き手として、家事手伝い、家畜の世話、幼い兄弟の世話を担わされる。

 基本的インフラも整備されておらず、極端に識字率の低い貧農地帯に暮らす人々は、メディアへのアクセスは極めて困難である。情報から隔絶された社会は、純朴で無知な人々を育む。 世間を知らない少女やその親は、娼婦の周旋人の巧みな誘いにたやすく騙され、日本円にして数万円〜十数万円程度で、デリーのG.B,ロード、コルカタのソナガチ、カーリーガート、ムンバイのカマチプラといった、名だたる私娼窟に売られていく。 最近は、湾岸諸国や香港などにも、多くのネパール人少女が“輸出”されていることが知られてきている。



2.組織的な人身売買の手口
 人身売買は、売春宿のオーナー(ネパール人とベンガル人が主)、ブローカー(インド人)、娼婦の周旋人(ネパール人)の三者によって、組織的に行われている。

 周旋人は、農村部の貧困家庭を狙う。農作業に向かうため、一人歩きしている少女に、親切を装い、「カトマンズのカーペット工場の就職口を紹介してあげる」、「インドでのメイドの口を斡旋してあげる」などと声をかける。 純朴で無知な少女たちは、貧しい親を助けたい、過酷な農作業から逃れたいといった理由から、安易に信用してついていってしまう。

 周旋人は国境まで少女を運び、日本円にして3000〜5000円でブローカーに引き渡す。ブローカーは数万円〜十数万円で、売春宿に売り飛ばす。


3.売春宿での少女たちの生活実態
 売春宿に売られた少女たちは、劣悪な環境下、無給で春をひさがされる。 支給されるのは、粗末な食事と数枚の衣類、客引きのために施す粗悪なメイク用品のみ。 客が少女たちを買う値段は100円〜数100円程度。1日10〜20人の客を取らされる。顧客もまた、社会の底辺に生きる男たちが多くを占めている。

 売春宿のオーナーや客の要求を拒めば激しい暴行が加えられ、性の奴隷として酷使され続ける。売春宿は現地マフィアと結託しており、24時間体制で見張りがつき、脱出は不可能である。

 また、売春宿は、現地警察とも癒着構造にあるため、容易には救出できない。

 HIV感染など、極めて深刻な病気にかかるか、客がつきにくくなる年齢(30歳以上)になって放り出されない限り、10年以上にわたって売春を強要される。

 インドのHIV感染者は350万〜400万人と推計され、その最たる感染経路は娼窟にあるといわれている。 売春宿は、表向きにはコンドームの着用を勧めているが、客が拒めば強要はしない。よって、売春宿は性感染症、HIV、ウイルス性肝炎、結核の巣窟と化している。 HIVについては、半数以上の少女が感染しているといわれている。


4.ネパールの少女が狙われる理由
 このような非人道的な環境下に置かれているネパール人少女は、15万人とも20万人ともいわれ、売春宿で働かされている女性の半数近くを占める。 ネパール人少女の需要は、極めて高い。その理由として、次の3つが考えられている。

@ 肌の白さに執着する国民性・・・インド人の顧客は、インド女性よりよりも色白であるモンゴリアン系のネパール人少女を好む。 インドの身分制度であるカーストの四種姓を表すヴァルナは皮膚の色を指し、色白ほど高位とされるため、肌の白さにことのほか執着すると考えられている。
A 処女性の重視・・・インド国民の大半を占めるヒンドゥー教では、処女性がたいへん重んじられている。このような宗教的な背景があって、処女の雰囲気を持つ少女が好まれる。
B HIVに対する認識の低さ・・・HIV感染を懸念する顧客は、娼婦としての経験が浅い少女であれば、HIVに感染している確率が低いと考えていることも、幼い少女が好まれる理由である。



5.何故、このような人身売買の組織が存続しているのか?
  人身売買という犯罪の裏で暗躍している性産業組織は、高度に組織化され、潤沢な資金を擁している。 社会のいたるところに協力者(娼婦の周旋人、売春宿のオーナー、少女の親戚・友人・集落の顔見知り、国境警察、警察、地方役人、政治家など)を開拓して、性奴隷の調達、運搬を行っている。

  人身売買を許す社会的要因も多岐にわたっており、貧困のみならず、女性に対して差別的な男女の地位の格差、家庭崩壊、文盲、執行力の脆弱な法体系、政治家のコミットメントの欠如などが挙げられる。



6.人身売買を廃絶するために〜私たちの取り組み
現地NGO『マイティー・ネパール』の主な活動
トランジット・ホームの運営・・・インドの私娼窟から人身売買被害者を救出する活動
リハビリテーション・センターの運営・・・救出された被害者の自立支援活動
プロベンション・キャンプ(保護・訓練施設)の運営・・・人身売買被害を未然に防ぐための啓蒙活動
ホスピスの運営・・・HIV感染者や行き場のない被害者のケア
アウエアネス・キャンペーンの実施・・・一般の人々の意識改革と活動を提唱
政府への提言活動・・・政府に人身売買の廃絶にために、法改正の要求活動など
『希望の先駆けプロジェクト』の推進・・・HIV/AIDS患者へのARV治療(抗レトロウイルス薬剤投与)提供プロジェクト(プロジェクト完了)

『ラリグラス・ジャパン』の主な活動
ホスピス年間運営費支援
日本国内における人身売買問題の告知活動(セミナー、シンポジウム等の実施)
スタディー・ツアー
フェア・トレード
『希望の先駆けプロジェクト』への参画(プロジェクト完了)

 
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