「希望の先駆けプロジェクト」調査報告

みなさまへ

 8月の現地訪問直前、ラリグラスが参加することになった「希望の先駆けプロジェクト」について、ご案内しました。
 今回は、本プロジェクトにかかる調査を行いましたので、その結果をご報告します。

 本プロジェクトは、マイティ・ネパールと、最大ドナーであるドイツのNGOが中心となって企画されました。
 3月の国際会議の際、ラリグラスもプロジェクト参加を要請され、以降、すでに参加を表明していたUKのNGOなども交えての意見交換、調整を図り、8月時、ラリグラスも参加することを決定しました。
 しかしながら、抗レトロウイルス薬剤による医療ケアは、豊富な知識と経験、細心の注意が必要といわれています。
 ラリグラスが案じたのは、マイティ・ネパールはじめ、このプロジェクトに関わる各国NGOや、医師団が、どの程度、この医療ケアに関する知識を持ち備えているかという点でした。
 不安要素がありながら、なぜ、参加を決定したのか。それは、ラリグラスが参加しなかったとしても、このプロジェクトはどんどん進んでいってしまうからです。
最善の形で医療ケアがなされることを願うラリグラスとしては、「問題点は率直に指摘し、速やかに改善を促す」ことが最も重要であると考え、ならば、プロジェクトメンバーになって、対話のテーブルに着くことから始めなくてはならないと判断したからです。

ネパール政府の発表によると、国内には6万人のHIV感染者が存在するといわれています。
しかしながら、政府は感染者に対するケアを、ほとんど行っていません。
よって、マイティ・ネパールが、政府に先駆けて、初めて組織的に医療ケアを施すことに挑戦することとなりました。

9月3日、大々的に記者会見が行われ、新聞、テレビニュース、ラジオなどでプロジェクト立ち上げが発表されました。ラリグラス・ジャパンの名も、プロジェクトメンバーのひとつとして、報道されました。マイティも各国ドナーも、この日をとても誇りに思い、ラリグラスもマイティから、深い感謝の意を述べられました。
 しかし、ラリグラスがこの時点でも懸念していたのは、「マイティや各国ドナーが、プロジェクトがスタートしたことに満足してしまい、今後も細心の注意と最新の情報を要する医療ケアが、おろそかになってしまわないか」という点です。
 時折、ドナーにみられる傾向ですが、「何かを成し遂げた」というピンポイント的な事実のみに満足してしまい、その後のケアがおろそかになってしまうケース−があるのです。

 例えば、学校のない貧農地域の子どもにために、外国人ドナーが学校を建設したとします。建物が建った時点で満足してしまいがちなのですが、その後のサポートを怠ると、その学校は半年後に物置と化してしまったりします。「学校」という建物がないから子どもが学校に行けないのではなく、周囲の大人に「子どもに教育は必要不可欠である」という概念が欠落していたり、「貧しくてとても子どもを学校にやれない、子どもも重要な労働力として、家事を手伝ってもらわなくてはならない」という考え方が、子どもの教育の機会を妨げているのです。ハードだけでなく、ソフトの継続的な提供も、学校を建設したドナーの責務のひとつであると考えます。

 このような視点から、今回の調査はたいへん重要であり、この医療プロジェクトがどの程度の知識を基に推進されているか、関わる医師の性質と技量はどの程度か、どのような姿勢と体制で取り組まれているかなどを中心に行ってきました。
 本プロジェクトは、先頃採用された、マイティ・ネパールのクリニックに常駐する女性医師と、7名の医師団によって進められています。マイティに常駐する医師は、若年のため、経験不足とみられますが、HIV・AIDSについて、多大な感心を持っており、積極的に取り組んでいるように見受けられました。ただ、彼女の人間性には、少々、問題があるように感じました。
 ネパールの医師は、良家の出身者が大半であり、気位が高い者も多数います。彼女はまさにそのタイプで、患者さんに対する態度が、冷たいように感じました。例えば、インフォームド・コンセントは、患者さんの気持ちを汲み取り、慎重に行われるべきですが、こういった点で、温かい配慮が欠けているように見受けられました。
 ホスピスの前任ナースであるシルさんも、その点を指摘しており、「温かい心で女性たちに接して欲しい」との見解を述べていました。

 本プロジェクトに関わる医師は、医療的なケアだけでなく、患者さんの心のケアも担わなくてはならないと考えます。
 7名の医師団(内科医、血液、薬学、精神医学、循環器系、小児科、婦人科、病理学)などのうち、プロジェクトのリーダー格である3名の医師と、それぞれに会談しましたが、その場においても、この女性医師の人間性の問題が話題に上りました。しかし、本プロジェクトはたいへん困難である上、この女性医師に支払われる報酬は低額です。よって、本プロジェクトに専念してくれる医師の確保はたいへん難しく、彼女の存在はとても貴重です。彼女としては、将来、ネパールに数少ないHIV・AIDSの専門医を目指しているようです。今後、この分野の医師のニーズは必ず高まるので、パイオニアのひとりとして認知されることを目標としているようです。よって、彼女の医療分野での取り組み姿勢は、認めるに値します。性格的な問題点は、医師団およびマイティ・スタッフ、我々ドナーが彼女をバックアップして、改善と成長を促すことに努力していこうということになりました。

 また、この医師の経験不足の面は、7名の医師団がバックアップしていってくれます。7名の医師団は、すべてボランティアです。HIV・AIDS患者の臨床経験は少ない医師たちばかりですが、最新の情報をインターネットで入手し、日々、勉強会を行っています。また、ネパールで4人しかいないといわれる、HIV・AIDSの専門医とも、連携していく方針とのことです。
 リーダー各となる3名の医師と、数回の会談を行いましたが、みな、とても勤勉かつ熱心で、心強く思いました。また、こちらの質問に対し、「分からないことは分からない」「その点は不安に思っているのでさらに情報を集める」と答え、決して、おごらない態度に好感を持ちました。社会的地位の高い医師という立場をひけらかさず、真摯にプロジェクトに取り組む姿勢には、感銘を受けました。

 「日本からの情報提供も、ぜひ、お願いしたい。意見交換も頻繁に行っていこう」との依頼を受けましたので、ラリグラスの医療担当ボランティアさんと協力し、定期的なコンタクトを継続していくつもりです。
 今回の調査内容は、各国のプロジェクト参加団体あてにも報告する予定です。
 他国のドナーは、ラリグラスほど、現地調査に力を注いでいないため、こちらから積極的に情報提供していかなくてはならないと考えています。
 問題点を共有し、一丸となって、マイティ・ネパールと医師団を後押ししていくことが、プロジェクトを成功させる上で、最も有効な手段であり、それこそがドナーとしての責務と考えます。
 ホスピスの女性たちは、大きな希望を抱いて、カトマンズにやってきました。
 毎年、年2回のツアーを終え、別れを告げるとき、ひとりひとりが挨拶の言葉をくれます。
 今回、彼女たちは、こういってくれました。
 
「今まで、さよならをいうとき、本当に哀しかった。次にまた、会えるかどうかわからなかったからです。それまで、生きていられるかどうか、わからなかったからです。でも、今回は、この次もきっと会えると信じられます。私たちに治療の機会を与えてくださって、本当にありがとうございます」

 医療ケアがスタートしたことが、彼女たちに大きな希望を与えました。
 本プロジェクトには、多大な費用がかかりますが、実現したのは、ボランティアのみなさんひとりひとりの精力的な活動と、寄付者のみなさまのご支援の賜物です。
 多くの方の温かい気持ちがひとつとなって、スタートしたプロジェクトです。
命の重みを常に感じながら、必ず成功することを願って、努力していかなくてはと感じています。今後とも、なにとぞよろしくお願い申し上げます。

以下、本プロジェクトの企画書に、調査結果を記入しました。
ご参考ください。

ラリグラス・ジャパン
長谷川まり子
 (2003年9月18日)

   希望の先駆けプロジェクト   
翻訳:三原一夫

マイティネパールが保護するすべての少女売買犠牲者に
HIV/AIDS医療を施すプロジェクト

 要約
 「希望の先駆け」は、マイティ・ネパールが保護するすべてのHIV/AIDS患者に綿密な看護の下で医療を施すための、マイティ・ネパール、国際支援団体と個人による共同事業です。
 マイティ・ネパールの人身売買廃絶という中核の活動に従い、この事業の第一段階の主な対象者は、インドの私娼窟から救出されたネパールの少女や女性となります。
 家庭内暴力、性的虐待、レイプ被害者など人身売買以外の犠牲者で、マイティ・ネパールの救助を求める者も対象に含める計画ですが、それは先になって行ないます。

 目標、目的
 マイティネパールのすべてのHIV/AIDS感染女子に対し、近代的抗レトロウイルス治療を展開。マイテイ・
   ネパール本部の運営するクリニック、およびジャパ郡サッチガッタのマイティ・ネパールが運営する
   ホスピスの患者が対象(ラリグラス・ジャパンは、ホスピスの運営資金をサポートしています)
   マイティ・ネパールが採用するフルタイムの女性医師による医療看護
 患者に対し、注意深い医療監視、ウイルス、CD4細胞の定期検査、血液検査の結果による治療方針
   の修正
 患者の心理的、道徳的支援
 事業計画全体のきめこまかな文書化
 HIV/AIDS医療分野の国際規格と最新の科学的成果に関する研究および継続的な情報の更新
 支援団体への定期的報告


 プロジェクトの具体的な内容
女医一名の採用と雇用
 要件 1.特別な献身と強い動機の心を持つ強い人格の持ち主
     2. HIV/AIDS患者の扱いの経験と適切な治療技術
     3.フルタイムの雇用(国内のマイティ・ネパール各種施設への出張を含む)
     4.給与の50%はマイティ・ネパール負担、50%は「希望の先駆けプロジェクト」から支出。
 訓練された女性カウンセラー1名の採用
 訓練された女性看護婦1名の採用
 最新抗レトロウイルス薬剤の信頼できる調達、供給
 定期血液検査の実現と実施
    a) CD4細胞
    b) ウイルス負荷

    CD-4検査の機械が一台最近カトマンズに着きました。が、まだ実用状態にありません。
     そのため依然として血液サンプルをインドのムンバイに送らねばなりませんし、その費用は予算に
     含めてあります(2003年3月現在の状況)。
     両血液検査の頻度 年2回


 調査結果
→今回の現地調査中、CD-4検査の機械が、カトマンズで使用されることになりました。よって、今後、血液サンプルをインドのムンバイに送る必要がなくなり、速やかに検査結果を把握することが可能となりました。
 CD-4は、抗レトロウイルス薬剤を投与するか否か、決定する上でたいへん重要な検査項目です。WHOガイドラインによると、検査結果の数値が200以下の場合(AIDS発症とされる)、投薬することとなっています。UKスタンダードでは、350以下の場合、投薬することとなっています。正常値は、424〜1630です。
 ネパールでは、数値が200以下の場合、投薬を開始し、数値が500以上で、ポリープやリンパ腺の腫れ、湿疹、口内のカビなどが診られない患者については投薬しないという方針がスタンダードとなっています。

 さて、ネパールのHIVには、
HIV−THIV−UHIV−T&Uの3種があります。最も多いのがHIV―Tのタイプです。ちなみにアフリカでは、HIV−Uタイプが多く、ネパールにはアフリカ→インド→ネパールといった経路で、入ってきたといわれています。このHIV−Uは、病状の進行がゆるやかであるといわれています。また、サブタイプと呼ばれる種があり、Cタイプ、Bタイプといった呼称で分類されます。薬剤はC、Bのタイプ別に製造されます。
 ネパールでは、HIV―T・Cタイプが大半です。ちなみに、アメリカはHIV−T・Bタイプが多いといわれています。
(今回インタビューした医師団のメンバーいわく、アフリカに多いHIV―Uタイプの患者は、アメリカにはほとんど存在しないため、製薬会社もWHOも、このタイプの患者を無視している。貧国の患者は、製薬会社のマーケットとならないため、重要視するメリットがないためとのこと)
 今回、ホスピスの女性を含む37名が、CD-4検査をしました。結果、数値が200以下が11名、200〜350が7名、350以上が18名、1名は検査結果待ちとなっています。HIV−Tが35名、HIV−2が1名、HIV−T&Uが1名という結果です。ホスピスでは、カマラ、プシュパ、サビットリーの3名の数値が200以下との結果であり、カマラ、プシュパについては、投薬が開始されました。しかし、サビットリーは、髄膜炎によって危篤状態にあるため、抗レトロウイルス薬剤の投与は待たれています。回復後、今後の医療方針が検討されることになっています。
 クマーリ、スジャータ、カビータ、アプサラについては、200〜350の数値を示しました。ボーダーライン上の彼女たちに投薬するか否かは、医師団の綿密な検討会議によって、決定されます。情報が入り次第、追ってお知らせします。
 数値が350を超え、当面、投薬の必要がないと診断されたのは、チャンヌー、アーシャ、トゥラサ、マドゥ、クリシュナの5名です。

 ここで、併せて苦しいご報告をしなくてはなりません。
 本プロジェクトを開始するにあたり、マドゥ(3歳)とクリシュナ(5歳)の2名について、再度、HIVに感染しているか否か、血液検査を行いました。彼らは、ホスピスに暮らすスジャータとともにレスキューされ、その時点で血液検査を行いました。その結果、母親はHIVに感染していましたが、2名の子どもは否との結果が出ました。しかしながら、その際、Elaizaという誤診の可能性のある検査方法をとっていたため、再検査が必要であるといわれていました。そして、正確度ほぼ100%といわれる、Western Blot法という検査を改めて行いました。結果、たいへん残念ながら、HIV感染が認められました。
 スジャータはじめ、ホスピスの女性全員が、彼らは感染していないと信じていたため、大きなショックを受けていました。しかし、今後、適切な医療ケアを施していけば、10年、20年、30年の延命も可能であること、現在、子どもたちの数値はみな正常であることなどを伝え、精神面のサポートに力を注ぎました。


 プロジェクトと資金の特別な必要性資金の保証
 抗レトロウイルス薬の投薬は、定期的に行なうことが不可避的に絶対に必要です。不定期な服用は、患者に益よりも害をなすことが科学的に証明されています。治療をひとたび始めたならば、その継続を絶対に保証せねばなりません。それには薬の供給の保証と使用、それを裏付ける資金がかかわります。それゆえ充分な資金というものがプロジェクトの実質的な必用条件です。すくなくとも一年または二年先までの資金の保証を持って投薬を始めなければなりません。

 国際アプローチ、多数NGOアプローチ (による資金拠出)
 このような絶対的前提条件を承知の上で、なお「希望の先駆けプロジェクト」はできるだけ早く実行すべきです。プロジェクトの目標基金を達成するためには各国による分担拠出(国際アプローチ)と、マイティ・ネパールの各種多数の支援団体による分担拠出が必要です。これを通して、このプロジェクトは国際的な共同事業であるとともに、マイティ・ネパールの友人たちの共同事業となります。というわけで資金作りの責任はこのように分担されます。現在、次の支援団体とマイティ・ネパールの協力者が、本プロジェクトへの参加を表明しています。

 英国     Maiti Children Trust UK
 
スイス    Chance SwissとFelix Siegristの家族と友人。
 
ドイツ    BONO Direct Aid Association (以前のHelp for Maiti Nepal)
 
日本     Laligurans Japan

 抗レトロウイルス薬剤の比較的高価格と不可避的な長期間の財政支援という前提条件により「希望の先駆け」への参加は最低三年間を条件とします。参加される全期間の資金払い込みの保証が必要で、少なくとも一年分の前払いを条件とします。


 受益者の人数および事業の段階
 事業の財政的保証のいまひとつの重要な側面は,受益者を厳密に限定することです。マイティ・ネパールは、絶えずいろんな個人や他の組織から抗レトロウイルス薬剤の供与の依頼を受けます。この事業を守るために、投薬の対象者は第一段階では,マイティ・ネパールの保護下にある人身売買の帰還犠牲者のみとします。それゆえ受益者の最大人数は40名に限定します。
 その後事業の第二段階で、充分な資金が得られるなら対象者の人数を増やせるでしょう。
 →現在、ラリグラス・ジャパンを含む各国の拠出金により、40名分・8年間の医薬品提供が可能な状態です。しかし、今後、抗レトロウイルス薬剤を必要とする患者は、増加することは確実であり、財政状況はまだまだ不十分です。ラリグラスとしては、1年分の拠出金を提供しましたが、今後も継続支援できるよう、努力を重ねてまいるつもりです。
みなさまのご協力を、心からお願い申し上げます。


 希望の先駆けプロジェクト事業予算

番号 予算項目 計算の基礎  月額  年額
NRs EUR NRs EUR
A 立ち上げ費用
・新聞広告 一括合計 30,000 367
・採用費用 一括合計 20,000 238
・事務所、文具 一括合計 10,000 119
・その他雑費 一括合計 10,000 119
小計(A) 70,000 833
 運営費
1 人件費
1.1 医師
・給与 13ヶ月
(含むDassain)
18,000 214 234,000 2,786
・諸手当 2,000 24 26,000 310
1.2 看護婦
・給与 同上 3,500 42 45,000 542
・諸手当 500 6 6,500 77
1.3 カウンセラー
・給与 同上 3,000 36 39,000 464
・諸手当 500 6 6,500 77
小計(B1) 27,500 327 357,500 4,256
2 血液検査
・ウイルス負荷 年2回検査
7,000 NRs
560,000 6,667
・CD4 細胞検査   年2回
1,500 NRs
120,000 1,429
・初回血液検査
 (Western Blot)
患者1人あたり
1回2,000 NRs
80,000 952
小計(2) 760,000 9,048
3 投薬
・抗レトロウイルス
 薬剤、治療
毎月1患者あたり
5,000NRs
200,000 2,381 2,400,000 28,571
・別の薬の予備 5患者あたり
2倍の薬剤費
25,000 298 300,000 3,571
小計(B3) 225,000 2,679 2,700,000 32,143
4 研究費 文書作成費(B4) 5,000 60 60,000 714
5  通信費(B5) 3,000 36 36,000 429
6  交通費
・マイティホスピスへの
 巡回
医師、看護婦
月約2回
6,000 71 72,000 857
・他の各種現場巡回 2,000 24 24,000 286
小計(B6) 8,000 95 96,000 1,143
運営費合計(B1〜B6) 268,500 3,196 4,009,500 47,732
7 緊急のための予備費
(B7)
運営費合計
(B1〜B6)の10%
26,850 320 400,950 4,773
総合計(A)+(B1〜B7) 295,350 3,516 4,480,450 53,338
国あたり資金拠出額 93,343 1,111 1,120,113 13,335
患者1人あたりの資金 7,384 88 112,011 1,333

一般注記
 抗レトロウイルス薬剤はインド産でカトマンズで購買可能
  →抗レトロウイルス薬剤は、Cipla社製のDuovir Nというものを使用することになりました。この薬の成分は、Lamivudine150mg、Zidovudine300mg、Nevirapine200mgとなっています。以前はそれぞれの成分ごとに別個の錠剤となっており、患者は毎回3粒の薬剤を服用しなくてはならなかったのですが、つい先頃、この3成分が混合された、この薬剤が発売されました。患者は朝7時と夕方19時に1粒ずつ、計2粒服用します。前述のように、抗レトロウイルス薬剤による医療ケアにおいては、患者の薬の飲み忘れは大きな危険をはらみますので、服用法の簡易化は有益です。
 また、飲み忘れを防ぐため、本プロジェクトでは、DOT(Direct Oral Treatment)と呼ばれる、医師が患者ひとりひとりを診察室に招き、薬剤を患者の口に直接、含ませるという方式をとっています。
薬剤の価格は、1瓶30粒入りで900インドRs(約2700円)、1人当たり1ヶ月に2瓶を服用するので、1に当たり、約5400円のコストを要します。
 現在、抵レトロウイルス薬剤は、インドの6社の製薬会社が製造しており、それぞれの製品は、多少の価格差があります。しかし、成分に変わりはなく、価格の差がパッケージの違い、ブランドのネームバリューの違いによって生じているのみとのことです。
 よって、本プロジェクトにおいて使用する薬剤は、最も安価なCipla社製のものとなりました。
抗レトロウイルス薬剤は、6週間服用した後、CD-4の数値を増加させるといわれています。6ヶ月後、CD-4数値が正常値に戻れば、投薬を中止します。また、副作用がみられた場合は、さらに高価な(約3倍の値段)、成分の組み合わせが異なる薬剤に切り替える方針とのことです。マイティ・ネパールに駐在する医師と、7名の医師団が、患者ひとりひとりの状態を定期的に検討し、WHOガイドラインおよびアメリカのCenter For Disease(CDC)ガイドラインを基に、医療方針を決定していきます。
 本プロジェクトでは、ART(Antiretroviral Therapy)という医療方針をとっています。これは、バンコクでも行われているスタイルです。アメリカでは、より高度なHAART(Highly Active Antiretroviral Therapy)という方針がとられていますが、こちらはよりコストがかかるとのことです。
 ネパールにも、1〜2年後、HAARTが導入されるのではと期待されています。
ARTの詳細は、会談した医師より資料を入手しましたので、翻訳した後、追って、ご案内します。

 ウイルス負荷の血液サンプル検査は今のところインドでしなければならないがもうすぐネパールでも出来るようになる。
 →前述のとおり、今回の調査期間中、ネパールでの検査が可能となりました。

  
  以上