<ニューイングランド医療ジャーナル>
希望の先駆け:論文
和訳:三原一夫

抗レトロウイルス療法 −資源が限られている地域での−

  ステイーヴン.レイノルズ 
ジョン.バンス  
 ホーマー.クイン 
クリス.レイヤー 
ロバート.ボリンジャー
医学博士、公衆保健主事
医学博士
医学博士
医学博士、公衆保健主事
医学博士、公衆保健主事

 2003年1月一般教書演説(「連邦の状況」演説)のなかでジョージブッシュ大統領はエイズ救済のため前例のない五ヵ年150億ドルの緊急計画を発表した。アフリカとカリブ海地域の2百万人のHIV感染者に高活性抗レトロウイルス療法(HAART)を施すためである。このような努力は医療と経済資源が限られている環境に住む2400万人以上のHIV感染者に希望をあたえるために至急に必要とされる。

 特定の製薬会社などの権利に属さない抗レトロウイルス薬剤の成分式、処方が出来、国連の統合HIV/AIDS対策プログラム(UNAIDS)がこの処方の使用を斡旋したことにより、多国籍の製薬会社が安い値段で抗レトロウイルス薬剤を提供できるようになった。(ある人達は)HIV感染者のための効果的な療法を地球規模の公衆衛生(保健)の最高の優先事項にすべきであると主張する人もいる(した)。

 しかしながら、重要なのはこれらの薬剤の単なる入手だけでは十分でないことを認識することである。世界全体の目的としては防止策と、患者をより長くより健康的に生きるのを明らかに助けるための臨床看護へのアクセス確保を結合することでなければならない。

 エイズ、結核とマラリアの三感染病で発展途上国では何百万人も死に続けている。三つの病気と闘うためのグローバルな資源を増やすために、エイズ 結核 マラリア対策のグローバル基金が創設された。最初の資金募集が2002年4月に行なわれ、3億7800万ドルが二年間にわたる31カ国の40対策プログラムの支援に配分された。

 基金は抗レトロウイルス薬剤がより多く入手できるようにし、必ず患者のために合理的で助けになる方法で使用されるようにするための多くの課題(挑戦)に取り組む機会を与えている。薬剤の入手に加えて、臨床看護全体のなかに抗レトロウイルス療法をどのように組み入れるかが解っている医療人たちが必要となるであろう。抗レトロウイルス薬剤の安全かつ効果的な使用に必要な実験室.分析装置へのアクセスも必要となる。さらに抗レトロウイルス療法実施のガイドラインを作らねばならない。

 ガイドラインは発展途上国の受益(療法の)感染者に明確に開示されねばならない。そして、高活性抗レトロウイルス療法の提供を、HIV予防の一部、HIV/AIDS教育とカウンセリング活動とともに初期治療(看護)プログラムに組み入れるべきである。

   (訳者註)高活性抗レトロウイルス療法 HAART (Highly Antiretroviral Therapy)

 この文書は2003年9月6日www.nejm.orgからダウンロードされた。当誌が支援としてネパールでの使用に無償で供与するものである。   著作権c2003 Massachusetts Medical Society  

訓練されたHIV医療看護者の必要性

 現在、食品医薬品局(食品および薬品管理局)が認定したHIV感染者の施療のための19の抗レトロウイルス薬剤があり、これらの投薬は高い可能性で重い副作用と他の薬剤との相互作用を伴う。

 いつHAARTを始めるか、いつ療法を変えるか、どの薬を処方するかを決定するのはますます複雑な仕事となってきた。北アメリカではHRRTの安全かつ効果的な施療のために、血漿のウイルス量(負荷)とCD4+Tリンパ球の測定が必要ときめられている。

 同時にウイルス耐性(抗体)と薬剤の(逆)副作用の監視である。HIV感染者の看護がますます複雑になっていることは、臨床看護ガイドラインが頻繁に更新されている事実に表れている。USAでは患者の生存は担当医師のHIV感染者看護の経験によることが示されている。

 この経験に基き抗レトロウイルス薬剤の投与に関する現在の議論を発展途上国に伝える必要がある。これらの国々でのHIV診療プログラムの導入は、HAARTの安全かつ効果的な実施のための訓練と情報アクセスを伴った看護担当者の増加に道を開くものである。

HAART施療のための要件、インフラストラクチュアー

 上述のごとく北米とヨーロッパではHAARTの合理的、効果的な施療のための必須手段として血漿のHIVウイルス量(負荷)とCD4+Tリンパ球の測定とウイルス耐性検査がガイドラインで定められている。 

 資源が限られている国々では実験室設備と分析を行なう訓練された技師を欠いている。薬剤による患者の(逆(好ましくない))副作用を検視するためには、周期的に完全血球算定(完全に血液を数え)、肝機能試験、血清クレアチンと脂肪レベルの測定が行なわれる。HAART実施拡大の努力は、現地の条件に合わせHIV看護ガイドラインを最適化するためにもっと実証データに基くアプローチを伴わなければならない。このアプローチをとるには、データを採取するための適切な実験室、医療インフラストラクチュアーが必要となるであろう。

 HAARTの施療を受ける患者をモニターするための、現在の設備に代替できる低コストの手法の開発が公衆衛生(保健)の優先事項である。加えて最近ハイチで行なわれているような、患者の状態から予測に基いて、低コストの看護を重ね医療終着点(何年もエイズ発症せず診療一応打ち切り、もしくは不幸にして患者の発病、死で診療終着)を迎える行き方の、その予測の価値(医学的、経済的な)を考量検証する必要がある。

抗レトロウイルス(薬剤に対する)抗体

 北米およびヨーロッパで、ウイルスの繁殖を完全に抑えることの困難の結果として薬剤耐性HIV株(HIVの(抗レトロウイルス薬剤に対する)HIVの抵抗菌種)が発生している証拠が多くあがっている。WHOはこの懸念に応えグローバル薬剤耐性HIV(抗体)監視ネットワークを創設し、国々が薬剤耐性HIV(抗体)の出現を監視するのを助けている。

 抗レトロウイルス薬剤の導入は継続的な供給の裏づけの上で行なわれなければならない。不規則な施療の結果高いレベルの薬剤抗体を発生させたアイヴォリーコーストとガボンに見られた初期の陥穽を避けるためである。

 初期の施療欠陥のことは別にして薬剤耐性HIV株(HIV抗体)は、HIVの垂直的伝播を防ぐためのジドブジン(抗ウイルス・HIV逆転写酵素阻害剤 )、ラミブジン(ヌクレオシド誘導体・抗ウイルス剤)とネビラピン(非ヌクレオシド型逆転写酵素阻害薬)の効力を急速に無くしてしまう可能性がある。 これは目下グローバルなHIV防止対策の最重要課題に属する。

診療ガイドラインの改善

 米保険社会福祉省(保健局)、英HIV協会および国際エイズ学会から現在出ているガイドラインでは、HAARTは発症してないCD4+T リンパ球が1立方ミリメーターあたり200細胞以下のHIV感染者から始めるように奨めている。(診療の対象者は1立方ミリメーターあたり200〜300細胞の感染者として)最近のWHOのガイドラインでも、発展途上国の未発症感染者のHAART開始にこのCD4+Tリンパ球のレベルを採用している。

 このHAARTガイドラインは北米、ヨーロッパおよびオーストラリアの診療試験のデータに基くものであり、他の国々におけるCD4+T リンパ球の数の正常範囲での(通常の範囲や)、遺伝上の(世界の一般)および地理的差異は考慮に入れてないかもしれない。発展途上国でこのHAARTガイドラインに従うのは濃い可能性の限界がある。それというのは、ガイドライン作成者たちの勧告を裏付けるために援用した診療試験報告によると、HAARTそのものが1立方ミリメーターあたりCD4+ Tリンパ球が200細胞のHIV感染者の死亡率と死期に影響するからだ。(した(たとえばカリニ肺炎感染や巨細胞<サイトメガロ>ウイルス感染)ことを示している。)

 これらのガイドラインが、CD4+Tリンパ球が1立方ミリメーターあたり200以上の患者に起ったHIV感染者の発病と死亡のほとんどの直接原因が結核や他の風土病的バクテリア感染であるような地域でも、北米などにおけると同じように有用であるかは明らかでない。

 しかし発展途上国のHIV関連の死亡を減らすのにHAARTの利得恩恵は明らかである事実に照らせば、途上国の患者にHAARTを施療する道を開くことは人道的かつ道義的にもしなければならないことである。とはいえ、現行のガイドラインが重要であり、またガイドラインがいまHAARTを最も切実に要する人々にまずHAARTを施療する第一歩の努力を助けるものであることはその通りとしても、医療と経済的資源が限られた条件下のHIV感染者の施療のためには現行ガイドラインは最適ではない可能性がある。

 そして亦、このような国々でのHAART施療の臨床看護ガイドラインを、米国のガイドラインが裏づけデータに基く基準で作ったように、(その土地での)同種のデータに基いて作ることが倫理的な必要事であろう。途上国の薬剤入手促進の努力は途上国への他の支援と連携して行なうべきである。それによって途上国が独自のデータを生み出し(それぞれが自分たちのデータの発表を促進し)、HAART施療のガイドラインの効力確認もしくは修正に役立てるようにすべきである。

HAARTの施療

 最近まで多くの国ではHAARTは一握りの費用的余裕のある患者に限られていた。ブラジルのような二、三の国はHAART拡大政策を始め、その初期データでは北米、ヨーロッパのガイドラインに従ったHAART施療はかなり大きくHIV関連の発病率と死亡率を減らしている。

 心強い客観的なデータがハイチと南アフリカのHAARTの試験的プログラムに表れている。(パイロット施療部隊から出ている)。南アフリカのデータではHIV 1型と関連した結核の発症は80%以上減少している。ウガンダとセネガルもHAART拡大プログラムの初期の成功を報じている。

 北米、ヨーロッパ、オーストラリアのHAART施療の経験は、途上国のデータの初期データも裏付けていると思われる数々の重要な教訓を我々に与えている。特に、療法を厳密に継続していくことが(旧来の療法への固執が)困難な問題で、HAARTのように効果的でない次善の抗レトロウイルス養生法は急速な薬剤耐性ウイルス(抗体)の発生を来たす可能性があることである。

 抗レトロウイルス薬剤入手の拡大を促進する施策が増えるなかで、発展途上の国々にかれらの医療の効果を測定する資源、設備.要員を持たせることが至上命令である。

初期看護および予防措置と組み合わせたHIV療法

 UNAIDSは最近サハラ以南の国々に、HIV感染の兆候を示すすべての患者にトリメトプリム(抗マラリア薬)、サルフアメトキゾール(抗菌薬)による予防を行なうよう勧告を発した。多く見られる(共通の)バクテリア感染と関連した発症率の大幅な減少を示したアイボリーコーストで行なわれた研究結果に基くものである。

 イソニアジド(結核治療内服薬)の使用もHIV感染患者の生存期間を延ばして(を改善して)いることが示されている。可能な対策措置―HAARTの拡大、イソニアジド予防、トリメトプリム、サルフアメトキゾール予防、フルコナゾール(抗かび薬)予防、はしか予防接種、肺炎双球菌予防接種もしくは清潔な水の提供―のどれが途上国のHIV関連の発症率と死亡率に最大のインパクトがあるかははっきりしていない。

 網羅的な初期看護計画に、HAART以外のコスト効果のある(低コストで効き目のある)他の処置を含めないで、ただHAARTを進める努力は、途上国の条件下のHIV感染患者の発症率と死亡率を改めるには限られた効果しか発しないおそれがある。

 予防看護と日和見感染症の治療の増加する必要に応えることはさらなる挑戦課題として残っている。HIV防止とHIV感染患者の看護のためのグローバル予算は、その一部を、途上国におけるHIV関連の発病と死亡を減らすための医療試験の支援に振り向けるべきである。

優先事項

 グローバルな目的はHIV感染に関連する発病と死亡を減らすために人々に診療と看護へ アクセスを与えることでなければならない。費用的にも使用可能な抗レトロウイルス薬剤の入手を可能にした努力は、この目的への重要なステップである。

 が、さらに多くのとるべき手段がある。資源的に実施可能なHAARTへのグローバルなアクセスを唱導するとともに、これら薬剤が患者を直接に益することを可能な限りにおいて保障する義務がある。

 HAARTへのアクセス拡大の施策は保健提供システム(保険実施のシステム)全体を改善する独特の機会を作ることになろう。初期看護の改善、看護と予防措置の統合、訓練され、経験を積んだ医療介護提供者(保険、看護人)の常置は共同体の全体を益するであろう。

 世界の保健医療団体(保健共同体)は、HIV施療の医療および公衆衛生(保健)上の効果をモニターし、HIV関連の発病と死亡に対するHAARTの効果を評価するためのインフラストラクチアーの設立を支援せねばならない。途上国における発病率と死亡率は先進国で見られたものとまったく異なる可能性が考えられる。

 治療・投薬計画が厳守されているかどうかと薬剤耐性ウイルスの発達状態については監視が必要となる。(養生法的療養への固執と薬剤抗体の進行の問題は監視が必要であろう。)薬剤の持続的入手ができることと、次善的な抗レトロウイルス投薬計画は避けること(養生法の排除)が不可欠である。

 途上国の多くの条件下では、栄養不良とか風土病との同時感染のような要素はHAARTにたいする免疫反応やウイルス反応に影響を与える可能性がある。(免疫学およびウイルス学上の答えを左右する可能性がある。)

 また重要なのは、ハイリスク行動(状態)とHIVの他への伝播、感染に対するHAART施療の効果をモニターすることであろう。HAART採用の拡大に伴い、途上国はさらに、その土地の条件下でHIV感染患者を診療、看護するためのガイドラインの最適化を図るために医療研究を引き受けなければならない。

 医療介護提供者の養成に(保健看護人の訓練に)必要な資源の付与、信頼できる実験モニターの確保、ガイドラインの最適化、これらに失敗すると、HAART拡大のグローバルな努力も公衆衛生(保健)の恩恵、裨益を限られたものに終わらせてしまうであろう。

(以上)